The production scene of professional.// lighting design ,planning &consulting プロの制作現場
今回は、照明デザイナー・吉野弘恵さんにお聞きしました。
『光のおしごとについて、照明計画の現場にて』 吉野弘恵
氏
About
the work of lighting Design, Planning And the scene. YOSHINO,Hroyasu
15, May, 2006

光のしごとの現場から
QU. 建築に於ける照明の位置づけについてお話しください。
ANS. 光というのは人間の見ているうちの80パーセントは目で感じているという事であって、目で感じている事ってすなわち光を見ているということになるわけです。ですからある意味ものすごくいいデザインをしても「光がなければ見えない」。その点で建築をよくも悪くもするのが照明かな。例えばここも(※吉野氏のオフィス)普通の事務所ですけど、あえて天井の蛍光灯を消して間接照明にしていますが、単純にこれだけでも全然違ってみえるでしょう。白色の蛍光灯にしておくと机上では明るいかもしれないけど、空間としての見た目は凡庸。そうじゃなくて同じオフィスビルであっても照明をかえる事によってデザイン的にまとまってくるでしょう。要はいくら建築がよくても、照明が悪ければ空間としてはよくなかったりもする。だから照明というのは建築の質に関わる位置にあると思います。
QU. インテリア照明と建築で大きく異なる事について。
ANS. まずここでは建築化照明が主体の話であることを前提にして(インテリア照明も基本的には同じ事かもしれないのですが)、「インテリア照明」とは室内照明という事であるということをベースに考えると、その「インテリア照明」は「照明器具の意匠」に準拠するものだと思います。そう云う意味でここでいう「インテリア照明」では器具の善し悪しが重要とされます。(「器具自身を見せる」というのは、率直に器具そのものをエレメントとして見せたいということになってくると思います)これに対して僕の場合のように建築化照明ではどちらかというと空間全体で考えているという違いがあります。基本的には意匠そのものが無いタイプの照明器具、空間を照らす事で空間全体に光の溜まりをつくって空間そのものを照明にするような手法です。空間を照明として組み立てているので、そこが建築化照明とインテリア、則ち意匠・器具自身をみせる光との違いです。

QU. 照明計画を行う上でどう云う点に留意されて設計されていますか?
ANS. 基本的には視線、つまり一番最初に空間に入っていくときに何処を見ながら入っていくかなということを考えます。最初に目線がいくところに照明を持ってくる。人間の眼がいくところが明るいということは、換言すればそこは人間が明るさを感じている場所なのであって、この部分の視覚的な明るさ感を満たすことが重要です。「視覚的な明るさ感」というのは、机上の照度とかなどの実質的な明るさ感に対して、人間の見ている先を明るくする事でもあります。建築化照明すなわちアーキテクチュアライティング(*1)ではこうしたことを特に心がけるようにしています。
*1
先ほど述べたように照明器具をみせるのではなくできるだけ空間を生かしながら、「その(光の)中に入ってきてもらう」、というような照明を基本としています。例えば低い天井であれば、天井を明るくして拡がりをみせようとか、入ってきたときにスポットライトで(!!盆栽を照らして)インパクトをあたえてみようとか、そういう考え方が基本だと思いますね。

QU. 照明というと夜間における機能的な側面と演出が想起されますが、「昼間における照明のあり方」について考えるとするならばどのような事がいえるでしょうか?
ANS. 昼間は機能的には昼光・太陽の光が入ってくるのでこれとのバランスになります。昼間の上からの入光に対して陰になる部分にこうした間接照明を使用するとか、逆に昼間は上からの光だけなので全体が陰るのであれば、天井全体を照らしてあげたりとか。あるいはエントランスなどからの動線に配慮する場合などもあります。昼間の光は7万から10万ルクスぐらいあるのでそこから屋内に入るときに急に照度が100ルクスとか落ちると人間の眼が暗順応になるでしょう?そのためできるだけエントランスを明るくして、それから徐々に普通の光にもっていってやる。例えば学校なんかでは入り口では1000ルクス程度出しておいて、教室では500〜700ルクスに落とすという具合に。外の太陽光の光から室内の人工光に順応するようなかたちで計画してあげたりすることなどもこれにあたります。
QU. 照明においてもイノベーション(技術革新)による影響は大きいと思われますが、吉野さんがこの分野の仕事をはじめられた頃と現在を比べて大きく変わった部分があれば教えてください。
ANS. やっぱりLEDかな。一時期に比べると大きくLEDのパワーがアップしているのと、僕たちがこの仕事に入ったときには、LEDが赤と緑とオレンジしかなくて、最近やっと白やその他の色とかがでてきたということがあります。やはりLEDの利点は熱が殆どでないとか長寿命であるとか、同時に省エネでもあるということなどがあり、こうした部分で注目されたと思います。ただコストが高いのとまだ光が若干弱いので、そのあたりが今のところまだ難しいところはありますが、例えばそういう種の光で長寿命のものがでてきたということが、建築や高所などへの埋設を可能にし、この辺から新しい照明のデザインが、このLEDが出現したことによって今後も出てくるのではないかなと思っています。
QU. あわせてこの分野における将来性や有用性について教えてください。
ANS. 将来性はあるのかどうか。(笑)ただ光源が昔に比べるとはるかに多くなっていて、同様にエネルギー(容量W)もそうです。またメタルハライドランプとかキセノンランプとか光源の種類が増えているうえに、照明の色温度・つまり色にも多様性があるという部分で、トータル的にコーディネートするという意味では、インテリアデザイナーとか建築家だけでは難しいものがあります。そこで照明の専門家が入ることによってうまくコーディネートしてくれるのではないかと思いますね。実際、海外の建築物件であればそのほとんどが照明デザイナーが絡む場合が多いわけで、徐々に日本でもそうした事例もだいぶ出てきつつあります。将来的には照明デザイナーと建築家とかインテリアデザイナーがコラボレーションしながらやっていくようなかたちにはこれからどんどん増えていくかなと思っています。
QU. やはり建築家やインテリアデザイナーなどに比べて照明デザイナーというのは…
ANS. 少ないですね。照明デザインって建築家やインテリアデザイナーとちょっと違うところは、やはり最初せいぜい1年ぐらいやっていても空間の扱い方がまったく分からないことですね。「500ルクスとか200ルクスとかここの光源は何にするかとか…」、そういう事って経験を積んでいかないと難しいということもあるし、いきなりきて「光源は何にしましょう」とか云われてもなかなかわからない。照度計算とかもしなければいけないとか、つまり技術的なことと光の感覚をある程度身につけないと仕事にならないとかといったこともあって、照明デザイナーというのはまだ少ないのではないかなと思います。

照明デザイナー、吉野さん自身についてのおはなし
QU. この仕事を始められたきっかけを教えてください。
ANS. もともとプロダクトデザインをやっていまして、プロダクトデザインの事務所から照明メーカー(ヤマギワ)に移ったことがはじまり。だから照明デザイナーになるつもりは全くなかったですね。最初に『ヤマギワ』に入るときも実は「家具をやらしてください」といっていたくらいなのですが、たまたまそこにいた照明デザイナーさんに「家具より照明のデザインのほうが面白いよ」と勧められてこの道に入ることになったわけです。

QU. ちなみにプロダクト時代は家具をやってらっしゃったのですか?
ANS. パソコンの周辺機器などのデザインをしているメーカーの企画開発室にいました。
QU. 学生時代にデザインに関して思ったことについて。
ANS. 学生の時は環境デザインという学科でランドスケープとか都市計画に関わるジャンルをやっていましたが、その当時はあまり興味なくて建築とかランドスケープとかよりもプロダクトデザインに憧れる部分がありましたね。「デザインに関して…」とか、忙しくて正直考える余裕がなかったというのが現状でしたね。
QU. 学生時代デザインする事は楽しかったですか?
ANS. 苦しかったね。(笑) 週3つ提出物があって毎週徹夜して出していた記憶がありますね。なんでこんな苦しい事、毎日せなあかんねんと。楽しむ余裕はなかったですね。
QU. 吉野さんのされているお仕事の領域を教えてください。
ANS. 基本的には照明デザインということで、建築家やインテリアデザイナーの方などから空間ができたときに図面をいただいてそれに対して照明を落としていく。「照明計画」の仕事ですね。あとはプロダクトデザインのような照明器具のデザインなどもやります。最近は施主の方と直接関わってリノベーションすることもあります。
2006リノベーション (兵庫県尼崎市)
外構を計画、建築と一体となった光がボリューム感を創りあげ、明るさ感とアイキャッチ効果を創りあげる。
リノベーション前


QU. 最近のお仕事の中で印象深い仕事、エピソードがあれば
ANS. 来年の春とかにオープンする現場とかありますがー、今動いている仕事は(守秘義務上)いえないしね。なにかないかな。
QU. では以前お伺いした「パンの照明」のお話を聞かせてください。
ANS. あーはいはい(笑)。あれはイベントでやったやつで、何か面白いことができないかなと思って、家でパンを一個ずつ焼いてそれをスライスしたものの中をくり抜いてそこに照明をいれたのですね。で、光としてなかなかうまくいったのだけど、一週間展示があって中の光が強かったからそのうちなんとなく展示室のまわりパンの匂いがしてきて(笑)、「照明よりもおいしい匂いに誘われた」というのが皆の意見で印象に残っていますね。(*2)

*2 2001
Messaggio Luce (神戸) 『クリエーターが創ったあかりのアートワーク展
』に出品した作品
QU. 今後関わっていきたい現場やジャンルがあれば教えてください
ANS. 今まで大体、例えば建築にしても基本的なものはやってきましたし…、でも、何回もやりたいのは美術館かな?展示物に対してどう光をあてるとか、技術的にも難しいところもあり、やりがいがあるので。
QU. 外部、つまりランドスケープ的なものであるとか、公園であるとかについてはどうでしょうか?
ANS. 公園も今まで何回かやってきているんですけど、日本の公園ってやはり" ハイポール " つまり高い照明が多いのね。この高い照明って空間を白い光でぼーっと全体を明るくしてしまって、あまりおもしろみがないんですね。ぼくらが思いたいのはヒューマンスケールの小さい光で空間をつくっていって動線を導いてやる。例えばマンションの照明にしてもポールをなくしてこういうガラスブロックの中に照明を仕込んで(*3)、このガラスブロックが光って点在することであったりとか、LEDを床に埋め込んで動線を浮きあがらせてやるとか。(*4)

*3 2003マンション外構計画 (大阪府堺)
ガラスブロックのベンチに光を仕込む事で光のたまりを創りあげ人だまりの空間となる。

*4 2003マンション外構計画(大阪府堺)2003マンション外構計画 (大阪府堺)
LEDを床に埋め込みエントランスへと導く光をつくる。
ただ単にポールを立てて周辺を照らせばいいや、というのではなくてある程度楽しい空間/昔の日本でいえば『行灯』のようなもので、これがぽっぽっとあるだけで楽しかったり、優しい光だったりする、そういう風な光をつくっていきたいなあと思っています。

QU. やはり街の光として『行灯』の方がきれいに見えるということでしょうか?
ANS. そうですね『行灯』そのものもそうですが、大きい光をぽんぽんと置くのではなくして、小さい光を連続しておく方がむしろよいということなのですけど。高い位置の光って250W、場合によっては500Wのランプなわけで、そこを足元からと照らせば20Wのランプでいいかもしれない。それのほうが見たとき空間としても気持ちいいということもあるし、このように高いハイポール灯があることでせっかくいい建築があるのにその建築等の妨げになったりする。そうではなくて低い光の連続で動線だけ照らしてあげると、動線も動線だけ浮かび上がるし建築も建築だけがきれいにすっと見えるというように、より全体的に照明計画していったほうがいいかなと思います。
QU. デザインや設計分野での仕事を目指す方々や照明に関わる仕事を目指す方にむけてアドバイスがあればお願いいたします。
ANS. まあ、どうしても最初会社に入ったときに一度は悩むでしょうね。僕も大学を卒業して最初に入った会社で、「なんでこんなんしてるんやろ」と。結局自分が思っていたことと全然違っていたからですから。ある程度自分のポリシーがあるのであれば一回辞めて違う会社目指してもいいわけだけれどもね。例えば照明に関しては最初1〜2年は結構苦しいかもしれません。僕も最初入ったときは1年目から辞めたかったね。わからへんねん。先輩から「ここ、こういう光で…」とか「ここはメタルハライドランプでやるからとか、ここは蛍光灯でとか、ここは色温度いくらでとか」云われてもイメージができない。照明に関しては1年経ってやっと照明の仕組みというのが分かってくるので、大学や専門学校を卒業した後にすごく悩むかもしれないけれども、1年ぐらいは最低我慢してやったほうがいいかな。多分2年目ぐらいから「はっ」と、こういうことかとわかってくる。そうしたらようやくちゃんと光とかデザインとか見えてくると思います。
QU. ありがとうございました。
インタビュアー :高澤憲司
インタビュー風景、写真 :森口友貴
作品写真その他 :吉野氏より提供

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ア力リ・アンド・デザイン ( akari+DESIGN
associates )
意匠中心の照明デザインではなく光を中心に 心理的、光学的な観点から照明計画、デザイ ン、コンサルティングを行う。 アーキテクチヤルライテイング、テクニカルライティングをベースに
光環境の創造を行なう。
代表 :
吉 野 弘 恵 (よしのひろやす)
【プロフィール】
・1988年 大阪芸術大学卒
・1988年 エレコム(株) 企画開発室
・1990年 (株) TLヤマギワ研究所 照明計画室 ヤマギワ計画デザインセンター
チーフデザイナー
・2002年 アカリ・アンド・デザイン 設立
主な参加プロジェクト
・佐川美術館(平成10年度照明学会優秀施設賞)
・大阪芸術大学総合体育館(平成10年度照明学会優秀施設賞)
・WINS米子(平成12年度照明学会優秀施設賞)
・中之島三井ビルディング(平成14年度照明学会優秀施設賞)
・国立劇場 おきなわ(平成15年度照明学会優秀施設賞)
・三重県立美術館(平成15年度照明学会優秀施設賞)
・世界救世教平安郷(平成16年度照明学会優秀施設賞)
homepage : http://www.akari-d.com